2009年7月16日木曜日

仏像修復の現場

壊れても仏像 - 文化財修復のはなし


著者の方は美術院国宝修復所で文化財の修復に携わった後、現在は茨城県にNPO法人を立ち上げ、主に関東地方の仏像の修復を行っているそうだ。

そちらのNPO法人のホームページ NPO古仏修復工房

まずは、仏像の種類、塑像・乾漆・一木造りと寄木造りなどの素材の違いなど。「塑像」、「乾漆」、「寄木造り」などは中学校の美術でやった覚えが微かにあるが、単に仏像の写真と組み合わせて機械的に暗記しただけだった。

 塑像や乾漆像は材料が非常に高価で手間がかかるものだが、奈良時代ころまでは国家事業として全面的なバックアップを受けて数多く作られた。その後、高温多湿の日本の風土には適さないことが判明しほとんどが木像の一木造りへ。さらに、質の良い大きな木材が無くなっていくと細かな木材を組み合わせた寄木造りが中心になっていく。

 ガンダムのプラモデルとの比較の話なども織り交ぜられて、楽しみながら仏像の流れが頭に入った。中学校の教師もこんな風に教えてくれたらなあ・・・

 

 続いては、著者の経験を元にした「仏像の壊れ方」と修復についての話。

 仏像というと博物館に納められた美しいものしか見たことが無かったが、やはり壊れるものは壊れるらしい。ネズミやら各種の虫やらに食い荒らされ、湿気にやられて腐り、乾燥して割れ目が入り、接着剤のニカワが劣化してぼろぼろになり、火事にあって炭化し・・・

 安置しておけば数百年持つものかと思っていたが、後世に受け継ぐためには適切な保守と定期的な修復が不可欠だという。「仏像が時を越えていくのはその仏像を残していきたいという人の思いの故であり、古い像はそれだけ人の想いが長く切れずに続いた結晶のようなもの」という記述が本文にあるが、まさにそうなのでしょうな。現状を見ると、その想いがこれからも受け継がれていくかどうかは若干の不安が残るが・・・

 最後は「文化財としての仏像」。仏像が国宝や重要文化財に指定されるのは、美術品としての価値というよりは仏教の伝来が日本の文化に与えた影響を考えてという部分のほうが大きいのだそうだ。そういうことなので、現在東南アジア等で大量生産されている仏像をいくら大事にとっておいても、将来国宝になる可能性は低いと。現代のもので「日本の文化に与えた影響が大きい」と将来認定されそうなものは、やはり漫画とゲームだろうか?

 日本史に多少でも興味があるなら、固くならずにエンターテイメントとして楽しめる本だと思う。なんか、もう少し仏像の本が読みたくなってきた