2009年6月16日火曜日

青年ヒトラー

ヒトラーの少年時代から、第一次世界大戦でを経てナチ党首となる直前までを描いた本。


ドイツ・オーストリアの国境あたりで官吏の子として生まれ、画家を目指して失敗し、建築家を目指して失敗し、第一次大戦での兵士としての体験で愛国心に目覚め・・・
というような大まかなところは知っていたが、クビツェクという少年時代からの無二の友人が居たことはぜんぜん知らなかった。

 ヒトラーといえば真っ先にホロコーストが連想されるわけだが、なぜそこまでユダヤ人を憎むようになったかについてこの本では「大衆の支持を得るための手段、タクティークだったのでは」と書いているが、自分もそんなところだろうなと思う。何らかの「敵」を作り出して内部の結束力を高めるのは、古今東西どんな国・組織でも普遍的に見られる現象だ。
 
 ヒトラーは美術学校の受験失敗、母親の死去、ウィーンでの極貧生活など、かなり不遇な時代を送っている。まあ、それはこの本にも書かれているとおり、半分以上は地道な計画や努力を嫌った本人の責任になるのだけれど。「若き日のアドルフの人生がもっと幸せに進展していたら、あのような悲劇は起こらなかったのでは」というような記述が何箇所かにある。しかし、それについてはちょっと疑問がある。「悲劇」fが起こったのはヒトラー一人のせいではなく、敗戦と大恐慌で壊滅した国内の経済情勢・そういう人物を熱狂的に支持した民衆・独裁体制を固めるのを許してしまった政治制度・なんら有効な策をうてなかった英仏、などなどの諸要因があってこそだ。他が変わらずにヒトラーだけがいなくなったとしても、別の人物がまた何らかの形で大いなる悲劇を起こすことになったのではないだろうか。